インプラントがあっても矯正治療は出来る?知っておきたい注意点と工夫

梅田茶屋町クローバー歯科・矯正歯科 歯科医師 竹田 亮

インプラントがあっても矯正治療はできるの?

結論からいうと、インプラントが入っていても矯正治療を行える場合があります。

ただし、天然歯とインプラントには大きな違いがあります。天然歯は矯正装置の力を加えることで少しずつ動かせますが、顎の骨と結合しているインプラントそのものを矯正治療で動かすことは基本的にできません。

そのため重要になるのは、「インプラントがあるかどうか」だけではなく、インプラントがどこにあり、どの天然歯をどこまで動かしたいのかという点です。

すでに入っているインプラントの位置を変えずに歯並びを整えられるケースもあれば、インプラントの位置によって歯の移動に制限が生じるケースもあります。まずは現在の歯並びとインプラントの位置を一緒に確認し、治療後の噛み合わせから逆算して計画することが大切です。

インプラントがあっても矯正治療は可能ですが、インプラント自体は動かせないため、治療計画に工夫が必要です。

この記事を読むとわかること

  1. インプラントがあっても矯正治療ができる理由
  2. インプラントを矯正で動かせない理由
  3. 矯正しやすいケースと難しいケース
  4. 前歯・奥歯などインプラントの位置による違い
  5. マウスピース矯正やワイヤー矯正が可能か
  6. インプラントと矯正治療の適切な順番
  7. インプラントを固定源として使えるケース
  8. 治療期間・費用・通院回数への影響
  9. 矯正治療を始める前に確認しておきたい注意点

インプラントが入っているという理由だけで矯正を諦める必要はありません。ただし、通常の矯正治療とは少し異なる視点で治療計画を立てる必要があります。

 

なぜ天然歯は動くのにインプラントは動かせないの?

なぜ天然歯は動くのにインプラントは動かせないの?の図解

天然歯とインプラントでは、顎の骨とのつながり方が異なります。

天然歯の歯根と顎の骨の間には「歯根膜」と呼ばれる薄い組織があります。矯正装置から弱い力が加わると、歯根の周囲で骨の吸収と形成が起こり、天然歯は少しずつ移動していきます。

一方、インプラントには歯根膜がありません。顎の骨に埋め込まれたインプラント体は、治癒期間を経て骨と結合します。そのため天然歯のように矯正力を加えて位置を変えることは基本的にできません。

つまり矯正治療では、インプラントを「動かない部分」として考え、その周囲にある天然歯をどのように動かすかを計画します。

天然歯には歯根膜があるため動かせますが、骨と直接結合したインプラントは矯正力では基本的に動きません。

天然歯とインプラントの違いを整理すると、治療計画をイメージしやすくなります。

比較項目 天然歯 インプラント
顎の骨とのつながり 歯根膜を介してつながる インプラント体が骨と結合する
矯正による移動 可能 基本的にできない
矯正治療での扱い 動かす対象になる 位置を変えない前提で計画する
噛む力の感じ方 歯根膜が感覚に関わる 天然歯とは感じ方が異なる

この違いが、インプラントがある方の矯正治療を考えるうえで最も基本となるポイントです。

「人工の歯だから矯正装置を付ければ動く」というわけではありません。インプラントの場所を変えたい場合には、矯正とは別の方法を検討しなければならないこともあります。

インプラントがあっても矯正しやすいケース・難しいケースは?

インプラント

インプラントがある方の矯正治療では、インプラントと動かしたい歯との位置関係が重要です。

例えば奥歯にインプラントがあり、前歯の軽いガタガタだけを整えたい場合は、インプラントが大きな妨げにならないケースがあります。

反対に、歯列全体を大きく動かす必要があり、その移動先にインプラントがある場合は治療計画に制約が生じます。

特に確認したいのは次のような点です。

  1. インプラントがどの歯の位置にあるか
    → 前歯なのか奥歯なのかによって、歯並びや噛み合わせへの影響が異なります。
  2. どの歯をどの方向へ動かしたいか
    → インプラントから離れた歯だけを動かすのか、インプラント周囲の歯を大きく移動するのかによって難易度が変わります。
  3. インプラントの位置や角度が現在の歯並びに合っているか
    → インプラントが最終的な歯並びに適した位置にあれば、その位置を基準として周囲の天然歯を整えられる場合があります。
  4. 全体矯正か部分矯正か
    → 限られた範囲だけを動かす部分矯正で対応できるケースでは、インプラントの影響を受けにくいことがあります。

大切なのは、「インプラントが1本あるから難しい」「複数あるから矯正できない」と本数だけで判断しないことです。

矯正のしやすさはインプラントの本数よりも、インプラントの位置と動かしたい歯の範囲によって左右されます。

代表的なケースを整理します。

ケース 矯正治療の考え方
奥歯にインプラントがあり前歯だけ動かしたい インプラントへの影響が比較的少なく、治療できる場合がある
インプラント周囲の歯を動かしたい 移動方向やスペースによって制約が生じることがある
歯列全体を大きく動かしたい インプラントの位置を含めた慎重な治療計画が必要
前歯のインプラントの位置を変えたい インプラント自体は矯正で動かせないため、別の対応が必要になる場合がある

同じ「インプラントがある人」でも、治療内容は大きく異なります。
そのため矯正相談では、歯並びだけを見るのではなく、インプラントを含めた口全体を一つの噛み合わせとして評価することが大切です。

インプラントがある場合はどのように矯正治療を工夫するの?

歯科医師と患者

インプラントがある場合は、「動かないインプラントを避ける」という考え方だけではなく、最終的な歯並びから逆算して天然歯の動かし方を考えます。

治療では、インプラントの位置、天然歯の本数、歯を動かせるスペース、噛み合わせなどを確認しながら計画します。

主な工夫としては、次のような方法があります。

  1. インプラントの位置を基準として天然歯を動かす
    → インプラントの位置を変えず、その周囲の天然歯を適切な位置へ移動させます。
  2. 歯を動かす範囲を調整する
    → 希望する見た目と噛み合わせを考えながら、必要な範囲に歯の移動を絞ることがあります。
  3. ワイヤー矯正やマウスピース矯正を症例に応じて選ぶ
    → 「インプラントがあるからマウスピース」「インプラントがあるからワイヤー」と一律に決まるわけではありません。
  4. 必要に応じて被せ物の形も考慮する
    → 歯を動かした後の噛み合わせによっては、インプラントの上部構造である被せ物の調整や作り直しを検討する場合があります。

ここで大事なのは、「今きれいに並ぶか」だけでなく「矯正後にインプラントも含めてきちんと噛めるか」まで考えることです。

インプラントを動かさず、天然歯・噛み合わせ・最終的な被せ物の位置まで含めて治療計画を立てます。

インプラントがあってもマウスピース矯正はできるの?

インビザライン

インプラントが入っている方でも、条件が合えばマウスピース矯正を行える場合があります。

ただし、「インプラントがあるからマウスピース矯正の方が簡単」という意味ではありません。マウスピース矯正でも、動かせるのは天然歯です。

インプラント部分を動かさないように治療計画を立てながら、そのほかの歯を少しずつ移動させます。前歯だけの軽度なガタガタなどでは対応しやすいケースがありますが、大きな歯の移動や複雑な噛み合わせの改善が必要な場合には、ワイヤー矯正など別の方法を検討することもあります。

矯正装置の種類を決めるときには、
「インプラントがあるか」
だけで決めるのではなく、
「どの歯を、どの方向へ、どの程度動かす必要があるのか」
を確認することが重要です。

インプラントがあってもマウスピース矯正は可能な場合がありますが、症例によって適した装置は異なります。

日本矯正歯科学会のアライナー型矯正装置による治療指針では、すべての症例をマウスピース型の矯正装置だけで治療できるわけではなく、適切な診断が重要であることが示されています。

インプラントを矯正治療の固定源として利用できることはある?

インプラントは矯正力でほとんど動かないため、その性質を利用して、症例によっては歯を動かすための固定源として利用できる場合があります。

矯正治療では、ある歯を動かそうとすると、力をかける側の歯にも反対方向の力が加わります。そのため「動かしたくない側をどのように固定するか」が重要になるケースがあります。

すでに骨と安定して結合しているインプラントは動きにくいため、治療計画によっては固定源として利用できることがあります。

ただし、どのインプラントでも使用できるわけではありません。

インプラントの位置や方向、周囲の骨や歯茎の状態、被せ物の形、動かしたい歯の方向などを確認したうえで判断します。

また、「歯を補うために入れた通常のインプラント」と「矯正治療のために使用する歯科矯正用アンカースクリュー」は目的が異なります。日本矯正歯科学会の歯科矯正用アンカースクリューガイドラインでも、矯正治療に使用するアンカースクリューについて指針が示されています。

既存のインプラントを矯正の固定源として利用できる場合がありますが、すべての症例に適応できるわけではありません。

インプラント治療と矯正治療はどちらを先に行うの?

これから矯正治療とインプラント治療の両方を予定している場合は、歯並びや噛み合わせを大きく変える必要があるなら、矯正治療を先に行い、その後インプラント治療を行うことが一般的です。

先に天然歯を適切な位置へ移動させて、インプラントを入れるためのスペースや位置を整えておけば、最終的な噛み合わせや見た目を考えてインプラントを埋入しやすくなります。

反対にインプラントを先に埋入すると、あとから位置を動かせないため、矯正治療の自由度が下がることがあります。

ただし、これは「必ず矯正が先」という意味ではありません。
すでにインプラントが入っている場合や、歯を動かす場所とインプラントの位置が離れている場合などでは、そのインプラントを残したまま矯正できることがあります。

両方の治療を予定している場合は矯正を先に行うことが多いものの、治療の順番は症例によって異なります。

治療の順番は、その後の歯並びや噛み合わせに関わる大切なポイントです。

治療の状況 基本的な考え方
これから矯正とインプラントの両方を行う 矯正で歯の位置を整えてからインプラントを検討することが多い
すでにインプラントが入っている インプラントを動かさず天然歯を移動できるか診断する
矯正予定部位とインプラントが離れている インプラントへの影響が少なく治療できる場合がある
インプラント自体の位置を変更したい 矯正では移動できないため、別の治療方法を検討する場合がある

インプラントは一度骨と結合すると、天然歯のように後から位置を微調整できません。

だからこそ、これから両方の治療を考えている方では「先に空いている場所へインプラントを入れる」のではなく、最終的にどの位置に歯が並ぶのかを決めてからインプラントの位置を考えることが重要です。

インプラントがある状態で矯正するメリットとデメリットは?

すでにインプラントがある場合でも、矯正治療によって周囲の天然歯の位置を整えられれば、見た目だけでなく噛み合わせや歯磨きのしやすさの改善につながる可能性があります。

一方で、インプラントが動かないことによる制約もあります。

メリットとしては、

  1. インプラントを残したまま歯並びを改善できる場合がある
  2. 周囲の天然歯の位置を整えられる
  3. 症例によってはインプラントを固定源として利用できる
  4. 歯並びを整えることで歯磨きしやすい環境を目指せる

などがあります。

一方、注意したい点として、

  1. インプラントそのものの位置は変えられない
  2. 歯の移動範囲に制約が生じる場合がある
  3. 矯正後に被せ物の調整や作り直しが必要になる場合がある
  4. 通常より治療計画が複雑になることがある

などがあります。

インプラントがあることは、必ずしも矯正治療の「デメリット」だけではありません。動かない性質を治療計画に活かせることもあります。

インプラントがあっても歯並びを改善できる一方、動かせない位置を前提として治療する必要があります。

インプラントがある状態で矯正するときは何に注意するの?

矯正治療を始める前には、インプラントそのものだけでなく、インプラント周囲の歯茎や骨の状態も確認します。

インプラント周囲に炎症がある状態で矯正治療を進めるのは望ましくありません。歯茎の腫れや出血などがみられる場合には、まず口腔内の環境を整えることが必要です。

また、矯正装置を付けると歯磨きが難しくなる場合があります。インプラント周囲に歯垢が残ると炎症につながるため、天然歯だけでなくインプラント周囲の清掃も丁寧に行うことが大切です。

さらに、矯正治療によって天然歯の位置が変わると、治療前には問題なかったインプラントの被せ物との噛み合わせが変化することがあります。

そのため治療中だけでなく、矯正治療が終わった後にもインプラントの噛み合わせを確認します。

矯正中はインプラント周囲の歯茎・骨・歯垢・噛み合わせまで継続して管理することが重要です。

インプラントがあると矯正の費用・期間・通院回数は増えるの?

インプラントがあるという理由だけで、必ず矯正治療の費用や期間が大きく増えるわけではありません。

治療費や治療期間を左右するのは、インプラントの本数だけではなく、不正咬合の程度、動かす歯の本数、治療方法、インプラントの位置などです。

例えばインプラントから離れた前歯を少し整えるケースと、インプラント周囲を含めて歯列全体を大きく動かすケースでは、治療の難易度や期間が異なります。

また、矯正後にインプラントの被せ物を調整・交換する必要がある場合には、矯正治療とは別に費用や通院が必要になることがあります。

インプラントがあるだけで費用や期間が決まるわけではなく、矯正する範囲と治療の複雑さによって変わります。

治療前に確認したい内容を整理しておきます。

項目 インプラントがある場合の考え方
治療期間 動かす歯の範囲や難易度によって変わる
矯正治療費 使用する装置や治療範囲などによって変わる
追加費用 被せ物の調整・交換などが必要な場合に発生することがある
通院回数 基本的には矯正装置の調整に合わせて通院し、必要に応じてインプラントも確認する

矯正相談の段階で、現在のインプラントをそのまま使用できるのか、被せ物の調整が必要になりそうかまで確認しておくと、治療後の予定を立てやすくなります。

「矯正費用だけ」を確認するのではなく、インプラントを含めた最終的な治療計画と費用を確認することが大切です。

インプラントがある方が矯正相談で伝えておきたいことは?

すでにインプラント治療を受けている場合は、治療した時期や使用しているインプラントの情報がわかれば、矯正相談の際に伝えておきましょう。

インプラントのメーカーや製品名、治療部位、治療時期などが記載されたカードや資料を持っている場合は、持参すると診断の参考になります。

また、

「前歯だけきれいにしたい」
「噛み合わせまで治したい」
「できれば今のインプラントは触りたくない」

など、治療について希望していることも伝えてください。

同じ歯並びでも、希望するゴールによって治療計画は変わります。

矯正治療では歯をどこまで動かせるかだけでなく、患者さんが治療後に何を改善したいのかを確認することも大切です。

インプラントの治療情報と、矯正でどこまで改善したいのかを相談時に伝えましょう。

インプラントと矯正治療についてよくある質問

Q1.奥歯にインプラントがあります。前歯だけ矯正できますか?

可能な場合があります。
奥歯のインプラントを動かす必要がなく、前歯だけの歯の移動で希望する歯並びや噛み合わせを作れる場合には、部分矯正などを検討できることがあります。
ただし、前歯だけに見える問題でも奥歯の噛み合わせが関係している場合があるため、全体を診断したうえで判断します。

Q2.インプラントがあってもマウスピース矯正はできますか?

症例によって可能です。
マウスピース矯正でもインプラントは動かないため、インプラントを固定したまま天然歯をどのように移動させるかを計画します。
歯を大きく動かす必要がある場合などでは、ワイヤー矯正やほかの方法を検討することがあります。

Q3.インプラントの歯も一緒に矯正で動きますか?

基本的には動きません。
インプラント体は顎の骨と結合しているため、天然歯のように矯正装置の力を利用して移動させることはできません。

Q4.インプラントを外さないと矯正できないことはありますか?

多くの場合、インプラントがあるという理由だけで除去するわけではありません。
ただし、インプラントの位置が治療後に予定する歯並びと大きく合わない場合などには、別の対応を検討することがあります。インプラントを残せるかどうかは、位置や周囲の骨などを確認して判断します。

Q5.これからインプラントと矯正をするならどちらが先ですか?

歯並びや噛み合わせを大きく変える必要がある場合は、矯正治療を先に行うことが一般的です。
天然歯を適切な位置へ移動してから、最終的な歯並びに合わせてインプラントの位置を決める方が治療計画を立てやすいためです。ただし症例によって順番は異なります。

まとめ|インプラントがあっても矯正できるかは「位置」と「動かしたい歯」で考える

インプラントが入っていても、矯正治療を行える場合は少なくありません。

ただし、インプラントは顎の骨と結合しているため、天然歯のように矯正装置で移動させることは基本的にできません。そのため、インプラントを現在の位置に残したまま、そのほかの天然歯をどのように動かすかを考える必要があります。

特に重要なのは、インプラントの本数だけではありません。

「インプラントがどこにあるのか」
「どの歯をどこまで動かしたいのか」
「最終的にどのような噛み合わせを目指すのか」

この3つです。

奥歯にインプラントがあり前歯だけを整えるケースと、インプラント周囲を含めて歯列全体を動かすケースでは、治療計画は大きく異なります。

また、これから矯正治療とインプラント治療の両方を予定している場合は、矯正によって歯の位置を整えてからインプラントを入れる方が適していることがあります。

すでにインプラントが入っている方も、「インプラントがあるから矯正できない」と自己判断する必要はありません。

まずはインプラントの位置、周囲の骨や歯茎、天然歯の状態、噛み合わせを詳しく確認し、インプラントを動かさずに希望する歯並びを作れるかどうかを診断することが大切です。
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